岐阜新聞連載中の記事で取り上げていただきました。
記者さんには実際にネパール現地まで取材に来ていただいており、大変ありがたく思っています。
内容は以下より。
岐阜新聞 2012年1月17日火曜日
支える手 本当の豊かさを求めて 15
「聖なる川」再生へ
高山のNPO、ネパールで環境教育
一面を埋め尽くすごみ。自然発生したガスがくすぶり乾期でも気温上昇に伴い異臭を放つ。「ごみ捨て場、これが『聖なる川』の実態だよ」。岐阜県と同じ海なし国標高1350bのネパールの首都カトマンズを流れるバグマティ川の河畔を歩きながら、途上国や日本国内で地域の自立支援に取り組む認定NPO法人ソムニード(本部・高山市)の和田信明代表理事(61)は説明した。
バグマティ川は岐阜市の長良川にあたるカトマンズを代表する河川。カトマンズ盆地の北を遮る標高2700bのシバプリ分水嶺を源流部に、母なるガンジス川に注ぐ。流域住民の重要な水源であるだけでなく、聖なる川でもあり、ネパールのヒンズー教徒は死後、遺灰をこの川に流されるのを願う。
ごみの廃棄は、上流域のカトマンズで既に始まり、生活廃水や下水、工場排水も川に垂れ流す状態が延々と下流に続く。トラックから当然の様にごみを川へ投棄する場面を見るたび、解決に向かいどこから手を付けたら良いか途方に暮れる。
「20年前まではきれいな川でね、私も少年時代、泳いだり魚を釣ったんだ」。ソムニード・ネパール事務所の代表を務めるデベンドラ・バスニャットさん(41)は、カトマンズ隣のアルバリ村出身。バグマティ川との由縁が深く、川の変貌に心を痛め危機感を抱く。一人で2000(平成12)年に和田さんの研修を受講したのを機に師事し、ソムニードのスタッフとなった。
20年間で川が一変した理由は急激な都市化と人口増加。現にカトマンズでは、自動車の排気ガス等による大気汚染が深刻化。電力不足で乾期は毎日計11時間も計画停電を強いられ、日中は車の大渋滞が慢性化している。
そこで和田さんとデベンドラさんは、環境保全教育を切り口に、国際協力機構(JICA)中部国際センターとJICAネパール事務所と協働で4カ年のプロジェクトを始めようと準備を進める。
対象は上流域約2平方㌖の人口20万人の住宅地。学校教育を核に地域住民への環境への意識改善を試みる。「お金で解決できることはたかが知れている、と東日本大震災と原発事故の辛い経験から学んだ。だから経験から学んだことで支えたい」と和田さん。
手始めに区域内の小学校約70校を訪問し、環境保全について何をどう教えているのかの現状調査から始める。ごみ出しのルールを決めたり、ごみを出さない生活に市民行動を変えて行くのが狙いで、清流の国づくりに取り組む岐阜県の経験を活かすことも試みる。
戦後、地域の学校が公衆道徳広めてきた日本。「子どもの頃、東京の隅田川が汚れ放題で悪臭を放っていた。バグマティ川も『いつか来た道』なら私たちはどう解決してきたか。思い出したのが学校の役割だった」
一方的な援助の押しつけは自立にならない。住民自ら行動を変えていくことなしにより良い社会づくりはできない。これが、19年の活動で培ったソムニードの信条だ。
全てが単一の価値観で判断されがちな市場経済、グローバル化の時代に、多様な価値観の一角として人類を豊かにし続ける道があるのか。本当の豊かさの実現を求めて、和田さんたちの新たな挑戦が始まる。
(沢野都)